農場たつかーむは設立者の夫婦と3名の養護学校の卒業生が、障害をもつ者もそうでない者も、共に自立するために始めた農場です。
「指導する者とされる者という立場をこえて、まったく対等に、喜びも苦しみも分かち合って生きることができたら。そして自らの生活の糧は自ら作り、障がいをもつ者も、そうではないとされている者も、共にあたりまえに暮らせる社会を作っていきたい!」
この切実な願いにより1987年、農場たつかーむは開設されました。
当初、設立者の夫婦と3名の養護学校の卒業生が離農跡地で共同生活をしながら始めた農場でしたが、現在は3つの法人で、数十名のスタッフが、畑と家畜と人間が有機的に循環する農法により、有機農産物と、3,000羽の自然養鶏により平飼い有精卵を生産しています。その他、レトルト食品、味噌等の食品加工、工芸、受託作業、たまごcafeを開いています。
それらの営みにより人々が健康になり、自然環境を保全し、なによりも自分たちが安全でおいしい食べ物を食する幸せを享受しています。
私たちの農場の一日は、四面開放鶏舎の中に放し飼いにされた鶏の世話から始まります。
地域の小麦・米ヌカ、微生物発酵飼料等を自家配合した美味しいエサを待ち受け、群がってくるトリ達をかき分けながら給餌する者、産卵箱に産み付けられたまだ温かい卵を集める者、カッターで細断した牧草を鶏舎に放りこむ者、水オケを洗い給水する者、誰もが自分が任せられた仕事に自信と誇りをもって取り組んでいます。
鶏の世話が終わると、次は農作業や加工品の仕事が待っています。
広大な大地にはいつくばって黙々と草取りをしたり、作物の収穫をすることは、夏の暑さや腰の痛みを越えて、自然の中に身を任せているという清々しさを感じさせてくれます。
500坪の鶏舎・作業施設も、柱の穴掘りから屋根のトタン張りに至るまで、皆仲間達で力を合わせて作ってきました。農場には畑仕事、生き物の世話から始まり、大工仕事、土方仕事、食品加工、雪かき等、無数の仕事が山積みされています。そのひとつひとつの仕事をマスターし、一人前にこなしていくことが、私たちの自信でもあり生きがいです。
「こんなことがはたしてできるだろうか?」とためらう暇を与えない自然にしがみつく生活が、私たちをたくましく成長させ、自立に結びついていきました。
私たちは農業を一生の生業と決めるにあたり、まず自分たちが食べたいもの、それは美味しく、私たちの子どもたちにも安心して食べさせられるものしか生産しないと決めました。
ですから、私たちの農業が有機農業を志向したことは、それ以外には考えられない当然の成り行きでした。
そして、私たちは、有機循環の輪の一環として鶏に参加をねがい、欲張りにもその輪の片隅に人間を加えてもらっています。
そこでの私たちの役割は、私たちのまわりに生み出されるすべてのもの、それは作物であり、卵・肉であり、生き物のフンであり、残サであり、人の喜怒哀楽であり、訪れる人達・お客さんとの関係といったもろもろを、より良い輪の中に組み入れ、かつその循環を広げていくことです。
畑作りの要となる鶏ふん発酵肥料の製造、余剰を生産物に変える畜産・食品加工、輪をつなぐための隠れた主人公である有用微生物の培養生産、実習生の積極的な受け入れ、地域に出ての農作業他の受託、ショップでの直接販売活動は、すべてそのための仕組みづくりです。
2006年の「障害者自立支援法」の施行に対し、私たちはより多くの人たちの雇用と、地域の障がい者福祉サービスを充実させるために、進んで制度に乗ることを選択しました。
任意の団体だった農場を合同会社として法人化し、就労継続支援A型と、就労継続支援B型の多機能型事業所として運営し、また、農場のメンバー、そして地域の福祉サービス充実のために、NPO法人サポートセンターたつかーむを設立し、共同生活をしていたメンバーが中心のケアホーム、創作・趣味活動を大切にする地域活動支援センターノンノの運営の他、相談支援・居宅介護・ガイドヘルプサービス事業を行い、両者が両輪の輪として機能することで、経済的にも社会的にも自立した生活を達成しています。
私たちは農場を開設した時から、障がいのある人もない人も対等の立場で雇用関係を結び、能力給の発想は一切排除し、最低賃金以上の、本人が必要とする金額を分配してきました。2012度、A型事業所の平均賃金実績報告では、道内3位の高賃金でした。
この賃金を維持するために、私たちは差別化・ブランド化できる有機農畜産物の生産技術を向上させ、その販路もすべて自分たちで開拓してきたのですが、事業収入を補うものとして、報奨金等の障がい者雇用に係る各種助成金、そして支援法に係るサービス報酬等を合わせた中から対等に分配しています。
また、仕事も、車の運転ができる精神障がいの人にはトラクターや農機具の運転を、身体障がいの人には事務やコーディネートの仕事を、というように互いに助け合い、補い合っておこなっています。
私たちのちいさな共生・自立の営み・挑戦が、どんな人も、共にあたりまえに暮らせる社会づくりのいしずえになることを信じて、これからも畑を、そして地域を耕しつづけます。